* 「聞き耳頭巾」を持つ人々:ジェーン・グドール *


5.対話から生まれた生命観


  動物と自分との繋がりを切り捨てない捉え方は、動物とは何かという問いを越えて、世界や自然、生命のあり方について思いをめぐらす機会を彼女にあたえることになった。グドールは、長年にわたりゴンベでチンパンジーを観察する中で、進化においても生態系においても生命の繋がりを見出すようになった。さらに、幾度かの得難い体験により、そうした生命の繋がりのなかに霊性(スピリチュアリティ)を感ずるまでになった。また、アフリカの開発によるチンパンジーの危機に際して、生命の繋がりの中でヒトがいかにあるべきかを問い直し、一研究者から環境・人道教育者への転進を遂げることになった。
  グドールが白髭のデーヴィッドと視線を交わし、ヤシの実を手渡し、手を触れ合わせることによって成し遂げた接触 ―― それは、グドールにとって、デーヴィッドと「心を通わせる」ということに他ならない。ヒトではない“他者”としてのチンパンジーの声に耳を澄まし、感覚や感性によってヒトの理解を超えたところに想像力をめぐらせたグドールだからこそ、そうした対話をかなえることができたのだと言えよう。
 

<参考文献と資料>
 グドール,ジェーン. 森の旅人. 上野圭一訳. 松沢哲郎監訳. 角川書店,2000.
 グドール,ジェーン. 森の隣人:チンパンジーと私. 河合雅雄訳. 朝日新聞社, 1996.
   (朝日選書 563)

 グドール, ジェーン. 心の窓:チンパンジーとの三〇年. 高崎和美,高崎浩幸,
   伊谷純一郎訳. どうぶつ社, 1994.
 グドール,ジェーン. チンパンジーの森へ. 庄司絵里子訳. 地人書館, 1994.
 グドール,ジェーン. 野生チンパンジーの世界. 杉山幸丸,松沢哲郎監訳. ミネル
   ヴァ書房,1990.
 グドール,ジェーン. 罪なき殺し屋たち. 藤原英司訳. 平凡社,1989.(Hugo V.
    Lawickとの共著)
 グドール,ジェーン. 森と海からの贈りもの. TBSブリタニカ,2002.
   (Jack T.Moyerと  の共著)
 Goodall, Jane. The Ten Trusts: What We Must Do To Care For the Animals We
    Love. N. Y., HarperCollins, 2002.(Marc Bekoffとの共著)
 モンゴメリー,サイ.彼女たちの類人猿:グドール、フォッシー、カルディカス.羽田
   節子訳.平凡社,1993.

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