* 「聞き耳頭巾」を持つ人々:ジェーン・グドール *

2.グドールのチンパンジー研究

 チンパンジーの行動の観察を始めた当初、グドールは動物行動学の専門的訓練を受けていたわけではなく、動物好きの全くの素人だった。彼女はチンパンジー一頭一頭に名前をつけ、「チンパンジーの気持ちになっ
て」行動を観察した。だが、当時の動物行動学からは、このような観察のしかたは批判の的となった −− チンパンジーの個体にはナンバリングをし、動物行動に対して擬人化した解釈をタブー視していたからだ。しかし、このグドールのやり方と資質こそ、もともとリーキーがグドールを抜擢したときのねらいだったのだ。

 それは、何故なのだろう?

 リーキーは、グドールの“素人としての感受性”こそが、動物とヒトとの架け橋を探り、その架け橋を丁寧に掘り出して浮き彫りにしていくと考え、それに賭けたのではないか。この辺り、想像の域ではあるが、チンパンジーへの共感や、人には想像することさえ難しい“チンパンジーの生きる世界”への直感は、科学のトレーニングを受けるとぼやかされてしまうのだ。しかし、この共感や直感があってこそ ―― グドールのように、チンパンジーの‘生き方’に心身を捧げ、その世界で生きてこそ ―― チンパンジーについ
て、ヒトについて、その架け橋の領域について、身をもって体験し、感じ、知ることができるのではないだろうか。

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