* 「聞き耳頭巾」を持つ人々:ジム・ノルマン *
【種を越えたコミュニティーの創造(2/2)】
ヒト=イルカ・コミュニティーは現代の人間文明にとって、つまり親密なコミュニティーをもつ他の地球の生物と遭遇し、交流しようとしている人間にとって、重大な進化のステップとなるかもしれない。人間がコミュニティーという確固たる枠組みの中で地球上の他の生物と遭遇し、交流するのだ。このコンセプトは共進化の最良の実例であるといえよう。もっぱら開発に努めてきた人類が、地球を大切な故郷として扱おうとする新しい役割へたどたどしく第一歩を踏み出したわけだ。「世界をひとつの共同体(コミュニティー)にする」夢は、トーテムの知恵の統合でもある。
(『イルカの夢時間』 吉村則子, 西田美緒子訳. p.259)
でも、ちょっと待って。「世界は一つのコミュニティー」という表現は、例えば「人類みな兄弟」とか「地球の仲間」とかいう表現は、しばしば”非常にいかがわしく、胡散臭い”ものではないだろうか? −− 現代、グローバリズムの影響の只中にあって、こうした言葉の名のもとに、経済主義や合理主義、戦争やテロリズムを推進する思想が、撒き散らされていく危険があるのだから。その上、この言葉、ちょっと薄っぺら過ぎやしないか?
実はノルマンも、こうした「コミュニティー」を提唱する上で、その危険性に気付いている。それを目隠しや薄っぺらなキャッチフレーズにしないため、彼はまずエコロジーの原則に言及する。
バリー・コモナーのエコロジーの第一法則によると、あらゆるものは他のすべてのものと繋がりを持っている。その意味で、一つのコミュニティーとしての世界は、われわれの認識の如何に関わらず存在する。人類の環境利用に関する決は下されているのだ。個人としても種としても、このエコロジーの法則によりうまく合わせるための実際的な方法の発見が緊急課題のようである。
(『イルカの夢時間』 吉村則子, 西田美緒子訳. p.259-260)
エコロジーの観点に立てば、全てのものは ―― 人間が意識するしないにかかわらず ―― すでに「つながっている」のだ。そのことの論拠は、さまざまな学問分野や芸術家の言うことに認められるが、『イルカの夢時間』の中で、ノルマンは、遺伝子としてのつながり、ガイア仮説、さらに植物とのコミュニケーションを研究したトムキンズとバードの考え、シェルドレークの「形成的因果作用」の仮説を挙げている(注12)。しかしこのあたり、ノルマン自身も、「コミュニティー」がすでに存在するものであることを、科学的に説明しようとして、やや四苦八苦しているように読める。
科学的な説明によって「コミュニティー」の存在をマクロに語るよりも、異種の生きもの、種を超えた命との一つ一つの出会いにこころを込め、相手との対等な関係を築こう、そして相手と一緒にコミュニケーションのルールを創造的に生み出していこう −− そうした現場の地道な努力にこそ、ノルマンの真髄があるように思えてならない。そして、感じとれる限りの相手の存在、相手の反応、相手の声に耳を澄ませ、もし何かを感じたなら ―― 他者との共生、共感、他者に対する'命ある仲間としての'想いを謙虚に繊細に表現してみる ―― そして、一緒に居ること、共にそこに生き、感じていること、つながっていること、などを、相手と共感、協調しあえるかもしれない。そこに相手との関係性やコミュニケーションが生まれるかもしれないし、生まれないかもしれない。もし生まれたなら ―― すばらしい感動や喜びを呼ぶときもあるだろうが、謙虚に受けとめる。そのとき、自分の命が他の命と共に生きていることを知ることができる。それは大自然の中では、命と命のつながりや、それが源のところで一つであるという感覚、自らも'生かされている'のだとう感覚に通じているかもしれない。
そうしたことを「大自然の叡智」と呼び、直観によって感じとっていくだけで、十分ではないだろうか。ノルマンのいう「コミュニティー」は、人間にとっては、まさにこうした叡智をうけとめ、直観を研ぎ澄ますことによって、わたしたちがそこで生きることができるようになる性質のものではないだろうか。
注12:ガイア仮説、さらに植物とのコミュニケーションを研究したトムキンズとバードの考え、シェルドレークの「形成的因果作用」の仮説など、いわゆる'ニューエイジ・サイエンティスト'と称される研究者たちの科学研究や背景的思想については、いずれ別項で紹介したい。特に、「植物と人間とのコミュニケーション」を探る上で、トムキンズとバードの研究は興味深く(ピーター・トムキンズとクリストファー・バード『植物の神秘生活』)、シェルドレークの研究は、生命のつながりの'場'を探っており、'All as One'の思想と共鳴すると考えられる。
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