* my bird sanctuaryにいらっしゃいませんか *

【バード・サンクチュアリの思想: 1.中西悟堂の思想 (3/5)】

 バード・サンクチュアリーの方は鳥獣および自然物の治外法権的な場所で、いかなる人工的干渉を許ささぬことを建前として法的に規制する区域であり、管理者にこれを管理させる場所である。わが国の政府はまだこれを造ろうとしておらぬが、英米およびヨーロッパにはこれが古くからあり、国または民間団体がこれを造っているほか、個人が造ることも認めている。民間団体がこれを造る場合は、一定の地域を買収してその所有権を獲得するか、または国有地の払下げ、ないし賃貸によって管理するわけで、青少年教育の場として管理者が指導もしており、一般国民も一定の管理の下に入所している。つまり、ある地域の自然環境、すなわち森林・湖沼・河川・原野ぐるみ、そこを鳥獣および自然生物の不犯のすみかとするわけで、面積の多少を問わず聖地とし、またそれにふさわしく造成する。
 英国では、エリザベス女王を総裁としている民間団体RSPB(鳥類保護協会)がみずから土地を買収して、既設・未設併せて六十ヶ所のそれを管理しており、数ヘクタールのものから、広いものは二千四百ヘクタールのものまである。またアメリカでは、国設のものだけでも三百七十余ヶ所に及び、十五万ヘクタールの広域を占めているものさえあるほか、個人私設のものも多いときく。が、野鳥の保護については、すべてにわたって英米やヨーロッパにいちじるしく遅れている日本には、まだ一つもない。そこで私どもの日本野鳥の会は率先してこれにとりくみ、その範を示すことによって、政府の意識を促進するとともに、国民理解の裾野を拡げようとしているわけである。
 理想としては全国土を九つのブロックとして、一ブロック毎に一ヶ所ずつのサンクチュアリーを実現することを目標としているが、何にしても莫大な資金を要することで、さしづめその第一号をどこかに造成するため、目下、一億円の募金を進めつつある。日本列島の乱開発により全土の自然があるいは破壊され、あるいは歪められている現在、そしてこれによって野生鳥獣がすみかを失い、餌場を寸断されて、人間も住みにくくなっている現在、自然を恢復し、人間を含めてすべての生物が健全に生きる指標としては、このサンクチュアリー造成こそが唯一の道だと思うからで、あとの八つのサンクチュアリーは、私どもにつづく後継者の協力によって実現したく、今とりかかろうとしている第一号は、その路線づくりの雛型のつもりである。
 アメリカは国が広いだけに、水禽の保護区にしても八千ヘクタールという大きいものがあるが、これもただ国が広いからできるというだけのものではなく、鳥獣保護、自然保護の意識が進んでいるから造れるのである。
 日本の水禽の保護区としては、琵琶湖や、日本一の雁の渡来地・宮城県の伊豆沼が大きいものだが、それも十年間とか五年間とかの期限きざみの指定に過ぎぬのも、当局に対する狩猟団体の圧力があるためで、伊豆沼にしても水面のみの指定であるから、そこに集まる雁や鴨が陸に上がって稲架(はざ)の籾(もみ)を食い荒らすという批難も起こり、これが狩猟者・農協対鳥類保護団体との悶着の種ともなる。水面周辺を含めた保護区域とし、そこに鳥たちの餌のための耕地さえ設ければ鳥害もないことになろうが、それを拒むのもまた狩猟団体である。
 要は鳥類保護政策の貧困に起因しているので、鳥獣保護区にしても狩猟を前提としたものであり、それの増設によって、猟区以外でも特定の場所を除いては日本中どこでも狩猟が出来るという、いわゆる乱場(らんば)を少しずつ少なくするという消極的なものでしかない。
 野鳥保護団体の会員は、米国では四十万人、英国では三十二万人と言われているが、わが国では私どもの日本野鳥の会の会員は、まだ一万にも達しない。しかも皮肉なことに、日本の狩猟免許者は約四十万人である。
私どものサンクチュアリー運動が、この状況を変革する力の一つともなれば幸いである。

               (『定本 野鳥記 月報3』 1978.11.25 春秋社)

★前のページへ戻る
「『my bird sanctuary』目次のページへ戻る
★次のページへ進む